リーダーの決断が組織の未来を左右する

経営者として、難しい局面で判断を迫られることは日常茶飯事です。市場競争が激化する現代において、先を見通す力や大胆な意思決定は、企業の存続と成長を左右することはこの記事をご覧になる方には、釈迦に説法でしょう。そのヒントを、戦国時代の武将、毛利元就が鏡山城の戦いで見せた戦略から、現代の経営に活かせる内容を解説したいと思います。

しばらくの期間は毛利元就から学ぶ経営企画シリーズと題し、解説したいと思います。

 

鏡山城の戦いの背景

鏡山城は、南北朝時代に周防大内氏が築城されたとされる標高335mの山頂を中心に築かれた山城で、安芸国西条にあり戦略的に重要な拠点でした。現在の広島県東広島市にあり、西条は奈良時代に国分寺が築かれるなど重要な場所であったことが伺われます。周辺が盆地であるため、穀倉地帯となっていたことが以下の動画で示されています。非常にわかりやすく解説していますので、参考にしてください。

 

 

さてこの頃の安芸国の支配は概ね長門・周防を中心に守護を務めていた大内氏、出雲を中心に勢力を拡大していた尼子氏、地元(安芸)の有力な国人衆の勢力が争う状況下でした。1523年尼子経久は、大内義興が九州北部へ出陣している隙を突いて、鏡山城攻略のため西条に進軍しました。

大内氏の直轄城指揮官は城督とよばれ、普段は現在の山口県にいることから、実務上の管理・防衛は別な管理官(東西条衆)を置いて、直接統治していたようです。なおこの頃の城督は陶興房(陶晴賢の養父)で、大内家の重臣。

また大内氏に臣従していた安芸国人衆も大内氏を裏切り、尼子方として共に動員されました。毛利氏はこの頃すでに尼子氏の庇護下にあり、当時9歳だった、毛利幸松丸[もうりこうまつまる]の後見人を務めていた毛利元就が、この戦いに尼子側の一員として参加することになりました。

よってこの戦いは、大内(, 陶) vs 尼子(, 毛利元就を含む国人衆)の戦いとしての性質が考えられると同時に、毛利元就もこの頃は尼子経久という大名の庇護下になければ、存続も難しかったという点においては、考えねばなりません。

 

戦いの進展

この戦いでは、尼子(毛利)軍は当初劣勢でしたが、元就は独自の戦略と巧みな交渉術で形勢を逆転させ、勝利を収めました。

当初、毛利元就は安芸の国人衆とともに鏡山城を攻めました。先に書いた通り、陶興房は不在のため、城内で蔵田房信とその叔父の蔵田直信が防衛にあたります。猛将とも名高い、房信らの戦いもあり戦線が膠着状態に陥った頃、元就は(保身に走ったであろう)直信を調略することを決めました。蔵田家の家督を継がせることを条件に、直信を寝返らせ、城内に侵入。膠着状態だった戦線が動き、房信は本丸に籠もり、抵抗するも最後は妻子と城兵の助命と引き換えにし、この申し出を尼子経久が受け入れることにより、自害。

しかし、ここからが政治です。房信の申し出こそ承認すれど、寝返った直信は処刑されます。結果的に元就の調略は成功し戦術的にも勝利したものの、尼子氏から恩情もなく、元就と経久との間に亀裂が生じ始め、毛利家としての戦略的には一進一退が続いた、というのが大きな流れです。

なおこの頃の毛利元就は数えで27歳。すでに才覚が合ったことを伺わせます。そしてこの戦いの後、毛利幸松丸は9歳にてこの世を去り、翌年には相合元綱との家督争いがおきる事となります。また、鏡山城の戦いの3年後には大内氏がこの地域全域を再度奪還していることも考えねばなりません。

 

なお、この話をすると元も子もないのですが、これら説明した毛利元就の調略は創作とされ、実際はなかったと考えられているそうです。

 

経営戦略に応用できる3つの教訓―着眼大局・着手小局

さて、戦いの中で注目すべきは「状況を分析し、最小の犠牲で最大の成果を得る」という元就の戦略的思考にあると考えます。国人から大名としての変化を求め、戦いに参加したという大局的視点から、また鏡山城の戦いを優位に進めるという小局的視点からより深く考え、現代の経営戦略に落とし込むとどの様になるでしょうか。

1. 情勢を的確に分析判断する力

毛利元就は、敵の勢力図だけでなく、調略を進めるために内部の不安定要素をも見抜いていたと考えます。鏡山城の戦線が膠着状態に陥ったとき、蔵田直信を裏切らせることで、戦局を変えることは、無理な正面攻撃を避け、自分に優位な状況へと持ち込むことで、比較優位に立ちました。

これを現代の経営に応用すると、市場の動向や競合他社の状況、自社のリソースを冷静に分析することと考えます。毛利元就は、大局的には尼子氏からの独立を検討する中、小局的には鏡山城の戦いで功績を上げることで、独立を目指した、とも考えられます。そのため鏡山城にいる競合の蔵田氏を調べ上げ、突破口を考え、自社リソースの自身(≒自信)の智謀を活用し、結果的に長期戦になり、陶氏の援軍が到着する前に決着をつけるという、無用なリスクを避けました。

特に、リソースが限られている中小企業では、焦らずに情勢を把握することが成功の鍵となります。とはいえ、タイム・イズ・マネーとも言うように、そこに無用な時間をかけると、援軍、例えば競合他社に、別企業からの(M&Aなどを目的とした)資金的・人員的支援や、開発支援といったことも考えられます。

当然、自社の変化が必要なタイミングで、また機が熟した、と考える前に実は行動することも良いのかもしれません。しかし、この情勢を的確に分析判断し、自社にとって優位な状況へ導くということは、非常に有効であると考えます。

 

何よりこの戦いの重要な点は、比較優位になるために、戦力ではなく、調略を使用したことです。いわゆる、軸をずらすという話です。

あるアメリカのビールメーカーの話です。もともと販売が振るわなかったこの企業では、マーケティングの専門会社に依頼し、新しく売り方を考えてもらうことにしました。そこで、まず実際にビール造りの現場を見てもらうことにしたそうです。そこでは、地下1,000mから組み上げた大変きれいな深層水を使用し作っていたことから、これを宣伝文句にしよう!とマーケティング会社の方は考えたそうです。しかし、メーカーとしてはどこもそんなことをしている!無意味だ!と考えていたそうですが、実際に広告の文句として使用している企業がいなかったことから、最終的にこれを採用し、大ヒット!

このように自分にとっては当たり前の事実でも、見せ方を変えるなどの軸をずらすことは、相手の行動を変容させることがあり、実際の経営でも大いに役立つのです。

 

2. 人的ネットワークを活用する交渉力

元就は、敵方を利用して交渉を進め、戦わずして一部の勢力を寝返らせ、戦闘を優位に進めることに成功しました。この結果、味方を増やしつつ、敵軍を弱体化させました。

これを現代の経営に応用すると、従業員や外部パートナーとの信頼関係を構築することと考えます。状況に応じて交渉術を駆使することで、競争を有利に進めることができます。たとえば、競合他社の顧客や人材を引き寄せるような価値提案を行うことが考えられます。

知っての通り、スイッチングコストは非常に高いのです。一度使用し始めたものは、よほどの理由がない限り、変えることは難しいと思われます。これはご自身でも思い当たることがあるのではないでしょうか。しかし、全くの不可能であるか、といえばそうではありません。魅力的な提案があれば、十分にスイッチングサせることも可能です。

ただしそのためには、自身の持つ人的ネットワークを活用し、事前に関係を築くということも重要ではないでしょうか。意外と知り合いの知り合いって多いですよね。私も大学卒業後に知ったのですが、大学時代の友人から、別な友人につながったことがあり、共通する友人がいるなんて、いやあ世間は狭い!と驚いた経験があります。

確かにお金といった客観的な観点も大事ですが、私も含め人間は感情(not 勘定!)で動くこともまた事実です。人的ネットワークを活用できるのであれば、それに越したことはありません。なお、ここで伝えたいのは一般的な異業種交流会や、ネットワーキングイベントなどのことを指すのではなく、自分が信頼する人の間においてということですから、人脈形成のために上記に参加しよう!と考えたのであれば、それは違うと思います。

 

3. 大胆な意思決定で勝利を引き寄せる

元就は最適なタイミングで攻勢に転じ、鏡山城を攻略しました。このタイミングの見極めが、勝利を決定づけました。

これを現代の経営に応用すると、市場の機会を逃さないためには、適切なタイミングで大胆な投資や新規事業の展開を行うことが重要です。「完璧な状況を待つ」よりも、「十分な分析の上で最善を尽くす」決断力が求められます。言うは易く行うは難しですが、経営者の最大の仕事は意思決定にあります。

その大胆な意思決定のためには、1.で解説したように必要な情報を入手し、判断することが求められるのです。着眼大局・着手小局と先に書きましたが、小さなことから進めて、大きなことを達成する。これが基本中の基本ですから、忘れないようにしたいです。もちろん自戒を込めてですが……。

 

実践ステップ|毛利元就の教訓を活かすために

それではこれら本日のポイントを踏まえ、あなたの経営にどのように活かすかを考えてみましょう。そのために、今から紙とペンを用意してください。そしてこれらアクションプランをぜひ今から紙とペンを必ず使用し、考えてみましょう。
ただ読み進めるのでは、あなたの組織は変わることはできません。いつも書く通りで面倒だと思うかもしれませんが、面倒なことは、すべからく大切なことなのです。

自社の状況を棚卸しする

強み、弱み、外部環境をデータで可視化します。客観的事実を冷静に判断することです。
そして、自社の目指す先(Purpose)のために、今何をすべきなのか、着眼大局・着手小局で紙に書きましょう。SWOT分析(は強み弱みが表裏一体なので推奨しません。)ではなく、競合から見て自社のポジショニングを考えたいところです。

ポジショニングについては、以下の記事で解説しています。

変革の時代を生き抜くための「事業ポートフォリオ最適化」

 

人脈を再評価する

社内外の人脈を整理し、それぞれの関係を強化する方法を考えます。例えば、顧客ロイヤリティを向上させる施策を検討することもよいでしょう。
なお、ここで言う人脈はあなた経営者の人脈に限りません、あなたの企業の社員の知り合いの知り合いに、必要な人がいるかも知れません。意外とゴルフを一緒にやっている他の企業の経営者仲間に必要な人がいるかもしれません。そういった情報をどのように吸い上げますか?

 

小さな成功を積み重ね、大きな行動に備える

いきなり大きい成功体験はまず生まれないと考えて良いと思います。初期段階でリスクの少ない小規模な試みを行い、成功例を積み上げてから大きなプロジェクトに取り組む方法が有効です。もちろんこれはリスク低減のためですから、ベンチャー企業などにおいては必ずしもそうではありませんよね。とはいえ、全く経験のないことに一から取り組むのは「車輪の再発明」かもしれません。頼れるべきところは頼ることも必要でしょう。
自社で「車輪の再発明」はしていませんか?部署間連携は適切に機能していますか?自社で重複するリソースがあれば、削れるかもしれません。部署間連携が行き届いていないと、複数の部署で同じデータを同一企業から購入しているなんてこともあります。無駄ですよね。でもこんなこと、よくある話なのです。あなたがそれをチェックする方法はありますか?それとも誰かに委任しますか?

 

まとめ

毛利元就が鏡山城の戦いで見せた戦略は、現代の経営にも通じる普遍的な教訓を多く含んでいることをご理解いただけたと思います。分析力、交渉力、そして決断力を磨くことで、企業は逆境を乗り越え、成長を遂げることができるのです。ぜひ、この記事を参考に、経営戦略を見直してみてください。

もちろん、ご相談も承ります。ぜひお問い合わせからご連絡ください。

 

なお本記事は筆者の集めた情報から作成しているものの、毛利元就の生きた時代のことを考慮すると、また最新の研究結果によって否定されることもあり、正確性を保証するものではありません。できるだけ最新の情報に当たるようにして記述しておりますが、間違いと思われることがありましたら、ぜひご連絡ください。

念のため記載しておきます。